BRICSが拡大している。ブラジル、ロシア、インド、中国が参加するBRICsは2009年に創設された。2011年に南アフリカが参加しBRICSとなった。2023年の首脳会議でアルゼンチン、イラン、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、UAEの参加が合意されたが、アルゼンチンは参加を取りやめ、サウジアラビアは検討中である。そのため、2024年1月に正式加盟したのは、イラン、エジプト、エチオピア、UAEの4か国である。
BRICSは2024年10月22日~24日にロシアのカザンで首脳会議を開いた。首脳会議には36か国が参加、外相が参加したブラジル以外の8か国首脳に加え、トルコの大統領とベトナムの首相も参加した。BRICSに参加を望む国は20を数える。途上国がBRICSに参加するのは、G7つまり米国など西側先進国主導の国際秩序への不満である。また、米国の力が徐々に低下する一方で中国が台頭しグローバルサウスの力が強まっている潮流に乗るという戦略もある。イスラム教徒の多い国ではガザ攻撃を行うイスラエルを米国や欧州が支持していることに強い不満がある。
首脳会議では、パートナー国制度が導入された。BRICS加盟予備軍といってよい。パートナー国候補は、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、アルジェリア、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、カザフスタン、ナイジェリア、トルコ、ウガンダ、ウズベキスタンの4か国である。注目すべきは、ASEANの4か国が入っていることだ。このうち、タイとマレーシアは今年6月、7月にBRICSへの加盟申請を行っている。インドネシアは昨年加盟申請を見送ったが、ベトナムは加盟に強い関心を示しており首脳会議に首相が参加した。
BRICSに参加申請を行ったことは、米国などに西側と中国・ロシアが激しく対立する中で中ロ側に立ったことを意味しないことに留意が必要である。タイ、マレーシアは同時期に先進国クラブといわれ西側のOECDにも参加を進めているからだ。さらに、米国主導で中国に対抗するIPEF(インド太平洋経済枠組み)にタイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムは参加している。マレーシアとタイのBRICS参加は、貿易の増加や自国の発言力や影響力の強化を狙った国益のためのであり、同時に米国側の枠組みにも同時に参加するしたたかな二股外交と評価すべきである。
25年1月6日にBRICSの25年議長国ブラジルの外務省はインドネシアの正式メンバーとしてBRICSへの加盟が承認されたと発表した。インドネシアは昨年10月にロシアのカザンで開催された第16回首脳会で正式加盟(full membership)を申請していた。BRICSにはタイ、マレーシアが加盟申請を昨年行っていたが、これら2か国より後に申請したインドネシアの加盟が先に認められた。インドネシアの加盟によりBRICSの加盟国は10か国となった。日本では11か国と報道されてるがこれは誤りである。ASEAN最大の国土と人口をもち、ASEANの盟主とよばれるインドネシアのBRICS加盟はインパクトが大きい。今後、タイ、マレーシア、ベトナムなども参加する可能性が高い。
トルコも正式加盟を申請しており、第2期トランプ政権の成立により米国の信頼度は低下すると思われ、国際政治経済の先行き不確実性が高まることが確実視されており、ヘッジ先としてのBRICSの影響力は今後増すと考えられる。
インドネシアもBRICS参加と報じられている。ジョコ大統領からプラボォ大統領に代わり、方針が変わったようだ。9月には、ロシア海軍とインドネシア海軍の合同演習が実施された。ベトナムもBRICSに強い関心を持っている。ASEANの主要4か国がBRICSに入る可能性が大きい。ただし、BRICS参加が中国寄りになり米国から離れたことを意味はしないことを理解すべきだ。ASEAN各国はしたたかな外交巧者であることを忘れてはならない。
BRICSは、投資銀行ゴールドマン・サックスのジム・オニールによって書かれた2001年11月30日の投資家向けレポート『Building Better Global Economic BRICs』で、ブラジル、ロシア、インド、中国の総称として初めて用いられたもの。新興国経済圏の総称なのだが、いつの間にか国際会議の加盟名になっていたので、私は違和感を感じる。
BRICSの中国語は「四國牆(スーグオチァン)」。つまり直訳すれば、「4カ国ブロック」という意味。米国生まれのこの用語が中国、ロシアの経済同盟として利用されるようになったのは、皮肉な結果といえるかもしれない。